江戸時代、「足袋沓」という靴がなぜ普及しなかったのか 

日本は靴が無い事がよく論われます

外国人からは「侍ってあんなに立派な格好なのに、履いてるのはサンダルってのがショック受ける」という人も居る程

成程確かに

サンダルに分類される草履や草鞋等の未発達な履物は、あまり実用性が高いとは言い難い要素が多すぎます

服や鎧には発展があったのに、靴と言う実用性が求められる品が何故未発達だったのか?

そんな中で実用性を求めて使われた靴はなんだったのか

 

「蹴鞠沓」「毛沓」「綱貫」「藁靴」等は実用性が高い靴です

しかし私としては「足袋沓」という靴に注目したい所存です

ja.wikipedia.org

 

 

 

日本の靴文明

 

まず日本にも靴を履く文明くらいはありました

裸足で草叢を歩けば毒草で腫れ上がったりしますし、原始的に求められる身体保護品です

しかし問題として「身分差別による規制が酷い」と言った風俗があります

上位身分の王族や貴族は靴を履いて良いが、身分が低い庶民が靴を履くなと言った嫉妬の習慣が根強く、江戸時代に至っては奢侈禁止令等の法規制とのいたちごっこが常態化していました

 

というかサンダルに分類される程度の履物ですら規制されてます

昔の日本の支配者層は「格下の者が武士の俺達より豪華な格好するのは許せん!」と規制ばかりしています

当時は女性だと羽織を着てはいけないという法規制があり、現代の和装マナー講師が炎上した事もあります

 

その程度の文明だった事から、服装に関して厳しい法規制があったのです

結果として靴等の実用品すら、規制の対象とされたのでしょう

 

しかし規制を受けていなかったご様子の靴があります

それが「足袋沓」です

 

足袋沓という地下足袋の起源

 

足袋沓は江戸時代に、駕籠かきや市中廻りの役人など「よく歩く」人が実用品として使った靴です

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形は革の足袋そのままの形状で、靴底として厚い革底に鋲が打ってあります

昔の洋靴と同じく革靴で鋲打ちなのは、洋の東西を問わない要素の様です

 

これが地下足袋の前身であった「跣足袋」の前身の「足袋沓」です

実用性が高い為、身分を問わず使われました

しかし前述の跣足袋の方が「軽やかな点が良い」と評価され、次第に姿を消します

どうやら昔の日本人は「革靴は足が重くなるから嫌だ」と言った理由で避けていた様にも思えます

今でこそ「なんか知らんけど、マナーだから革靴を履け」という風俗がある為、洋靴の革靴が選ばれますが、明治以前は西洋文化が入って来てないので「重い革靴を履くマナーがなかっただけ」と言えるでしょう

実情として現代になっても「革靴は重いから仕事以外はスニーカーがいい」と言う意見は根強いです

 

因みに跣足袋は「布製で石底等を用いた足袋」であって、革靴の「足袋沓」とは違います

 

しかし別の問題もありました

高温多湿の気候・風土の問題で、材料の皮革が腐りやすいのです

 

皮革製品の悪臭と劣化スピード

 

日本は島国である事から、海の湿気の影響がとてつもなく強い国です

世界一大きい水源である太平洋を東に構えた地理からも判る通り、夏の湿気が極端に酷く現代の東京なんかは「東南アジアの湿気より酷い」と言われる程の劣悪な環境です

 

もちろん腐りますよ、革靴も

実際悪臭が酷かった事や、劣化が早い割に高額、且つ自給自足し難い事等が普及しなかった理由として挙げられます

草鞋や藁沓が好まれたのも、こういった「安価&自給自足」と言う条件があった為に一般的だった訳です

 

私は経験していませんが、雪の中での藁沓はかなり断熱性が高いらしく、民俗学者の方は「まったく冷たくなく革靴よりも凍傷になり難い」と評価する程に実用性が高い靴でした

 

藁の実用性は「藁蓑」のウィキペディアにもある様に、構造によって通気性も断熱性も高い性能が得られる事が伺えます

 

また安価で交換が容易な事は、経済が未発達の当時の日本では重要な要素でした

 

その他の日本の靴文化

 

もちろんそれ以前の靴文化として、大陸から伝わった靴等があります

起源を遡るのは難しいですが

蹴鞠の際に履く長靴「蹴鞠靴」

武将が鎧姿の際に履く「毛沓」

室町時代には標準的だった「綱貫」

こういった文化からも「全く履いていなかった」という訳ではないんです

 

しかし文化としては致命的なまでに「希薄」だった事は否めません

本来頑丈な耐久性が売りの実用品だった足袋沓は、跣足袋となってからは耐久性度外視な所とかが中身スカスカな江戸っ子の気質をよく表してる感じです

そりゃ地下足袋が脆い訳ですよ

使うにしても長持ちしないのが欠点です

 

日本の履物として認識されているのが「サンダル状の履物」と強く印象付けられているのは、払拭できそうもありません

まぁ最近は足袋スニーカーなんて言って色々出てますし、漫画とか影響力が強い分野でもそろそろ取り扱っても良いんじゃないかなとは思います