鞐(こはぜ)という和装の留め具
鞐(こはぜ)という留め具が日本文化としてあります
「着物にはボタンがない」と言われがちですが、鞐は甲冑から衣服に至るまで留め具として利用されてきた歴史があります
ここでは鞐を4つに分けて語りましょう
①歴史
②素材
③形式
④用途
此れ等をまとめておきます
①歴史
鞐の歴史は恐らく奈良時代辺りが最古と思われます
正倉院の宝物の一つ「白葛胡録」(しろかずらのころく)には骨製と思われる鞐が良好な状態で保存されているのが証です
この胡録に取り付けられている鞐は楕円形や長方形である事や、穴の配置が珍しい事から鞐の研究に於いて特に高い資料価値があるのではないでしょうか
因みにこの穴の配置が縦になっている鞐なんですが、区別する呼称があるのか知らない為、私は「奈良鞐」と呼んでいます
この手の穴の配置はカンタンに思い付きそうなものですが、この鞐以外では見た事がありません
単純に勉強不足である可能性もありますが、現存の資料は少ないので・・・
②素材
基本的に使用されている素材は四つです
骨・角・金属・樹脂
此等の素材以外では稀も稀で、見た事はありません
例えば木製の鞐は見つかっていない様です
経年劣化によって消失したのか、そもそも作られていなかったのか
難しい問題です
他にも陶磁器製なんかも作られても良い様な気もしますが、これも見つかっていません
鞐の歴史に於いて素材は多岐に渡る事は無かった様です
当時は発展しなかったんでしょうね
しかし現代では樹脂製の鞐が鎧用に製造されていたり、素材面に於ける発展が見られます
現代になって発展してきている文化とも言えます
③形式
基本的な留め具の役割である「笠鞐」
笠鞐を固定する為の留め具「責鞐」
僭越ながら前述の「奈良鞐」
丸い形状の?
大まかにはこんな感じでしょうか
大半の資料に於いて鞐は「責鞐」が付いた紐の輪に、「笠鞐」を引っ掛けて責鞐で笠鞐を紐の輪から外れない様に固定します
この時、責鞐を下側の紐に付けると重力で固定が外れますので、自作する時には注意しなければなりません
この2つは独立する場合も多く、当時の着物では「笠鞐だけ使う」や「笠鞐の代わりにボタンを使って責鞐で固定する」と言った資料例が散見されます
その為か、合羽に使われる鞐は「ボタン掛け」と俗称されていた歴史があります
恐らく当時の大衆感では鞐とボタンを区別する意識がなかったのでしょう
正確な知識もないでしょうから区別ができなかったのかと思われます
しかし鞐の中にはボタンの形状に似た丸い物もあります
この形状を区別する名称があるのかは存じませんが、「ボタン」とは区別して「鞐」として扱うべきでしょう
簡単に分類して区別するならこんな感じ?
ボタン:細い糸を通した留め具 外国起源
鞐:紐や緒等を通した二つ穴の留め具 日本起源
結構違いますね
④用途
用途に関しては多岐に渡るというしかありません
鎧や軍事品に使われる事が多いですが、服にも採用される様になります
それが南蛮貿易で伝来した「襦袢」と「合羽」です
今となっては原型が残っていませんが、この二つは元々ポルトガル由来の「南蛮服」が起源であり、日本の風土に合わせて変容しました
その際にボタンが使われていたのは当時の資料からも明らかなのですが、代わりに鞐が使われる様にもなってから殆どの襦袢・合羽に「責鞐」が付いています
しかし業界は合羽の名前を道行と呼ぶ様になり、鞐を廃止したのかスナップボタンが主流になり、鞐の伝統は完全に断絶しました